第一回 しらすとパスタと彼女たち  

 
作 今井雅子

 
 白いパスタ皿に映えるのは、トマトソースの赤。
 
 そう思ったけど、最初に盛りつける一品は、オイルベースのしらすのパスタと決まった。
 この皿を陶工房DANの陶房で作ったとき、居合わせた女性二人と、しらすの話題になったのだった。
 一人は地元に暮らす三十代、もう一人は鎌倉や江ノ島にちょくちょく通う二十代。二人とも陶芸への興味以上に食べることに情熱を寄せている点が、わたしと共通していた。 
 粘土をこねる動作からの連想だったか、どこの店の何のパンがおいしいという話がひとしきり盛り上がり、各自の持ち札が出尽くしたところで、話題はしらすに移った。
 鎌倉のしらすの旬は三月から五月にかけてで、この時期の生しらすは絶品だとか、生しらす丼はもちろんだけど、できたての釜揚げしらす丼はたまらないとか、しらすパスタも捨てがたいとか、しらすピザがこれまたおいしいとか。しらすピザなら江ノ島駅の近くにあるイタリアンがおすすめで、休日は行列覚悟だから平日に行くべしとか、江ノ島の坂の途中で売っているしらすコロッケは意外としらすの味がちゃんとするとか。
 地元の彼女と通いの彼女が主にしゃべり、わたしは主に聞いていた。
 しらすだけでよくこれだけ話すことが尽きないものだと感心するくらい、そういえばそういえばと、彼女たちのしらす話は数珠つなぎに連なった。頭の中がしらすで満たされた三人が、陶房の帰りに生しらす丼を求めて繰り出したのは、自然な成り行きだった。案内してくれたのは通いの彼女で、地元の彼女は知らない店だった。
 そんなわけで、白いパスタ皿は、しらすの思い出につながっていて、まずはしらすのパスタで記念すべきテーブルデビューを飾ろうと考えたのだった。
 まだ五月。ぎりぎり旬。
 パスタを盛りつけた皿を涼しげな水色のストライプのランチョンマットに置くと、テーブルは初夏の装いになった。
 手作りの器には、それを作った時間が宿っている。白いパスタ皿を見ていると、あの日陶房で交わした会話が蘇った。
 しらすのパスタなら、小松菜のペペロンチーノが断然おいしいと教えてくれたのは、地元の彼女だったか、通いの彼女だったか。
 連絡先を交換し合い、帰り道に「今日はありがとう」「楽しかった」「また会いましょう」という興奮の余熱のようなメッセージが何度か行き交ってから、しばらく間が空いていた。 
「しらすのパスタ、作ってみました」
 彼女たちに知らせようと、写真を撮った。
 小松菜の緑は、思いのほかパスタ皿の白に映えていた。
 
 
 

今井雅子  脚本家。
テレビ作品に朝ドラ「てっぱん」「そこをなんとか」「昔話法廷」「おじゃる丸」(以上NHK)ほか。故郷・堺を舞台にした映画「嘘八百」(陶芸家が活躍!)が2018年公開予定。
広告代理店コピーライター時代の経験をふくらませた小説「ブレストガール!〜女子高生の戦略会議」など書籍もちょこちょこと。

 
 
 

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釜揚げしらすと小松菜のペペロンチーノ

2017.5.10

春から夏へ。
花が咲きそろい、風が香る、一年で一番美しい季節。
サンデーブランチは、湘南の海で獲れたしらすでパスタもいいですね。

 

(材料)

釜揚げしらす、小松菜、ニンニク、鷹の爪、オリーブオイル、スパゲッティ(1.4mm)

(つくり方)

  1. フライパンにオリーブオイルを入れる。
  2. みじん切りにしたニンニク、鷹の爪を入れて火をつける。
  3. 香りが立ったら、小松菜、釜揚げしらす、塩少々を入れてサッと炒める。
  4. スパゲッティのゆで汁大匙1を加えておく。
  5. ゆで上がったスパゲッティをフライパンに入れて混ぜ合わせ、皿に盛る。

 
*小松菜の代わりにアスパラガスをサッと茹で,炒め合わせても美味。
 
 
 

調理・スタイリング・撮影:加田 務

TEL 0467-40-5972